日本では、回線契約を目的としてiPhoneなど高額なスマホが「1円販売」されています。しかし、これを問題視した公正取引委員会が強制調査に乗り出したようです。
この記事では、スマホ「1円販売」の実態や、それが抱える問題に迫ります。

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公正取引委員会が異例の“強制調査”
「TBS NEWS DIG(▷Yahoo!JAPANニュース)」によれば、スマホの「1円販売」は独占禁止法違反にあたるおそれがあるとして、公正取引委員会が異例の強制調査に乗り出したとのことです。
スマホの「1円販売」は回線契約を目的として行われる施策です。主に都市部では大型家電量販店、地方ではイオン内の家電量販店または携帯ショップの出張販売等で休日に行われていることが多いようです。

1円販売されるスマホは、iPhoneなど元値が10万円を超えるものもあり、これまでも総務省や公正取引委員会が問題視してきました。今回、異例の強制捜査に乗り出した理由は、携帯大手と代理店は秘密保持契約を結んでいて、取引実態を正確に把握しにくいためといいます。
それでは、スマホの「1円販売」の実態はどういうものなのでしょうか?以下、その実例を交えて具体的な内容を解説します。
スマホ「1円販売」の実態
型落ちのiPhone 13 miniが実質1円
これは最近筆者が購入した「iPhone 13 mini」の例ですが、地元のイオン内のエディオンにて実質1円で手に入れることができました。
これは、いわゆる2年レンタルで1円となる施策で、詳細は以下の通りです。
端末価格:109,755円(税込)
①店舗独自値引:-18,700円
②対象機種独自値引:-34,234円
③5G MNPおトク割:-3,300円(分割金から値引)
④購入後13か月~25か月以内返却で値引:-53,520円
非常に複雑ですが、まず①②により端末代金が値引かれ56,821円。その後、約2年間で分割して支払うのですが、3,301円を22回に分けて支払い、23回目に残った53,520円を支払うという仕組みです。
ただし、auの5GプランへMNPする特典③により、22回で支払う3,301円のうち3,300円が値引かれます。そして、④の購入後13か月~25か月以内の端末返却で、最後の53,520円の支払いが不要に。実際に支払うのは1円だけという訳です。

もちろん最後の割引を無視して53,520円を支払い、返却しないという選択も可能です。
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最新機種「Pixel 7」が実質1円
そして、こちらは旅先(京都)のエディオンで「Pixel 7」が実質1円となってた例です。上記のiPhone 13 miniは昨年の型落ち機種ですが、こちらは今月発表されたばかりの機種です。
こちらも2年レンタルで1円となる施策で、詳細は以下の通りです。
機種代金:87,310円(税込)
①店舗独自値引:-18,700円
②対象機種限定値引:-23,309円
③5G MNPおトク割:-3,300円(分割金から値引)
④購入後13か月~25か月以内返却で値引:-42,000円
まず①②により端末代金が値引かれ、45,301円。その後、約2年間で分割して支払うのですが、3,301円を22回に分けて支払い、23回目に残った53,520円を支払うという仕組みです。
ただし、auの5GプランへMNPする特典③により、22回で支払う3,301円のうち3,300円が値引かれます。そして、④の購入後13か月~25か月以内の端末返却で、最後の42,000円の支払いが不要に。実際に支払うのは1円だけという訳です。

もちろん最後の割引を無視して42,000円を支払い、返却しないという選択も可能です。
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Xperia 10 IVがMNPで一括1円。端末のみ購入でも一括22,001円!
そして、こちらは筆者が端末のみ購入した「Xperia 10 IV」の例で、地元のイオン内のエディオンにて一括22,001円で手に入れることができました。また、PayPay5,000円還元も含めれば実質17,001円です。
こちらは、上記と比べればシンプルな施策で、端末そのものが大幅値引きされています。
機種代金:74,880円(税込)
①割引A(新規/MNP・機種変更・端末単体):-52,879円
②割引B(MNPもしくは22歳以下の新規):-22,000円
①②を足すことで一括1円(もちろん返却不要)となる仕組みですが、回線契約に伴う割引は22,000円。実は端末そのものの値引きの方がかなり大きく、52,879円です。

実はこの端末そのものを割り引いているのは。上記のiPhone 13 miniやPixel 7も同様。対象機種限定値引と表記されているものがそれで、もちろん端末単体での購入が可能です。また、最近行われている大幅割引のほとんどが、端末そのものと回線契約に伴う割引を組み合わせる方式です。
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それでは、なぜこのような複雑な割引が行われるようになったのでしょうか。その謎は以下で解説します。
複雑な「1円販売」が行われるワケ
回線契約の割引は22,000円が上限
勘の良い方は既にお気づきかもしれませんが、上記の回線契約による割引はすべて税込22,000円となっています。これは法律による規制で、2019年の改正電気通信事業法により制限されています。

その抜け穴とは、端末単体での値引きを禁止していないという点で、店舗独自の割引によって2万円を超える値引きが事実上可能となっています。
そのため、端末そのものと回線契約に伴う割引を組み合わせる方法で、本来高額なスマホが1円でばら撒かれることになっているのです。
スマホ「1円販売」はあくまで回線契約に繋げるため
それでは、なぜこのような高額な割引を行ってしまうのでしょうか。答えは単純で、スマホをエサに回線を契約してもらいたいからです。
日本では、MNO(キャリア)と呼ばれるドコモ、au、ソフトバンク、楽天、これらのサブブランドであるUQモバイル、Yモバイル、そしてMVNO(格安SIM)と呼ばれる多数の通信事業者が存在しており、常日頃から激しい回線獲得競争が行われています。
回線契約のエサとなるスマホは、当然ながら元値が高い商品の方が魅力的です。通常価格22,001円から割り引いて1円のスマホもありますが、もちろんそれは低性能のスマホ。10万円を超えるような高性能なスマホが1円で手に入るなら誰でも嬉しいはずです。

そのため、端末そのものを大幅に割引することで、実質または一括で1円のスマホをバラまく施策が行われているワケです。特に回線契約が増える3月頃にこうした競争が過熱し、人気のiPhoneが一括1円となる例も多数見られます。
この方法は問題だらけ
しかし、上記のとおりこの方法は法律の抜け穴をついたものです。
元々、回線契約による割引を22,000円に制限しているのは、キャリアによる不当廉売を防ぐため。通信事業者の中で最も体力のあるキャリアが極端な割り引きを行ってしまえば、MVNOが競争上不利となってしまいます。
一方で、大幅に割引しているのに、回線契約ではなく単体購入ばかりされてしまっては赤字が積み上がるばかりです。そのため、単体で購入しようとしても「単体用の在庫がない」「在庫を確認する → 今日は在庫切れ」等の理由で販売拒否する店舗が後を絶ちません。
これは総務省の指導で禁止されている行為なのですが、販売店・代理店にはキャリアからの厳しいノルマもあり、総務省の意向に反することが分かっていても売らない(売れない)のです。

また、大幅に割引されたスマホを大量に購入後、転売して利益を上げる転売ヤーも後を絶ちません。こうした様々な問題があり、総務省や公正取引委員会は常々問題視してきました。今回の強制捜査もこれが背景にあると見られます。
まとめ:今後スマホの「1円販売」は無くなっていくかも
以上、スマホの「1円販売」の実態と、その問題点でした。
日本では、各所で本来高額なスマホを「1円販売」し、回線契約につなげる施策が行われています。法律上22,000円を超える割り引きをするためには、端末そのものを割り引きするしかなく、筆者が購入した「iPhone 13 mini」や「Xperia 10 Ⅳ」は単体でも高額な割り引きが行われていました。
こうした施策は消費者にとっては非常にありがたく、是非とも利用したいものですが、「キャリアによる不当廉売」「端末単体の販売拒否」「転売の横行」など多数の問題を抱えています。
今回、公正取引委員会が強制調査に乗り出したことで、今後このような施策に対する規制が強まり、本来高額なスマホの「1円販売」は無くなっていく可能性があります。iPhoneやPixelなど高性能なスマホをお得に手に入れたい方は、今のうちに施策を利用することをおすすめします。
ソース:Yahoo!JAPAN ニュース